- 乳歯が抜けないのに裏から大人の歯が出てきたのですが・・
- 歯が抜けたのだけれど、なかなか大人の歯が出てこないのだけど・・
- 大人の歯が出てきたけれど、ねじれてまっすぐ出ていないのだけど・・
- 子供の歯が隙間なく並んでいるから、大人の歯が出てきたときの歯並びが心配です
最近、歯並びについて、多い相談は、下の前歯の歯並びです。 下の前歯は、幼稚園の終わりごろから、小学校の1,2年生にかけて生え変わります。 しかしスムーズに生え変わらない子供さんが、本当に多いのが原状です。
このようなご相談は毎日のように受けることが多くなってきています。
それでは、どのような原因で歯並びに問題が出てきているのでしょうか?なかには、ご両親ともに歯並びに問題をお持ちで遺伝的な原因が考えられる方もいらっしゃいます。
また、指しゃぶりや頬杖、横向き寝、うつぶせ寝、などの習癖や生活習慣などによって顎が歪んでしまう例などが挙げられます。しかしそんな中で意外と多いのが口呼吸による不正咬合です。
次の項目に心当たりがありませんか?2つ以上あてはまれば、口呼吸かもしれません。
それではなぜ口呼吸が歯列不正を招くのでしょうか?
顎の大きさや形にどのように影響を及ぼすのでしょうか?
人間を含む哺乳動物は呼吸をすべて鼻で行っています。ところが人間だけが口でも呼吸をするようになってしまったのです。
原因としては諸説ありますが、進化の過程で複雑な音を組み合わせた言葉を獲得するために咽頭部の形態や位置が大きく変わったのではないかと言われています。
犬も口をあけてべろを出し、ハァハァしている状態は、息をしているように見えますが、実はあれは体温調節を行っていて、犬もやはり鼻呼吸なのです。
鼻は感覚器官であり、呼吸器官ですが、口は感覚器官であり、消化器官であって本来呼吸器官ではないのです。
呼吸器官ではない口が呼吸を行うため、さまざまな弊害が起こります。ですから鼻で呼吸する場合と口で呼吸する場合とでは体に与える影響が全く異なってきます。
空気中の細菌やウィルスが気管支や肺にダイレクトに侵入することと、乾燥した空気がリンパ組織である扁桃を腫らすため、免疫機能が低下し、感染症やアレルギー疾患にかかりやすくなります。
飛行機やエレベーターに乗ったりすると、耳が「ツン」と痛くなることはありませんか?でも唾を飲み込んだりしてしばらくすると、治りますよね。あれは耳管咽頭管といって扁桃周囲に開口部がある管が耳とつながっていて開いたり閉じたりして、中耳と外気の気圧の調節をしているのです。
ところが、扁桃が口呼吸によって腫脹していると耳管咽頭管の開口部分がふさがれて気圧の調節がうまくいかないだけでなくその炎症が中耳にも波及してしまうため、中耳炎を引き起こすことがあるのです。
口呼吸をする人は口へ空気が流れやすいように口をあけていることが多くなります。またあとで詳しくご説明しますが、睡眠時は鼻呼吸にシフトするのですが、鼻からの気道がせまくなっているうえに筋肉としての舌の機能が低下しているため、舌根部が沈下し、気道をふさぎ、いびきをかいてしまいます。
口で呼吸しながら食事をとることは非常にたいへんです。口腔内が乾燥しているので嚥下できず、いつまでも口の中に食べ物が残ってしまいます。
そういう患者様は食事中に水やお茶を補給することが多く、学校などでは牛乳で流し込んでいるケースが少なくありません。また口で息をすると舌のポジションが悪くなるため、ペチャペチャと音をたててしまうことがあります。
口呼吸によって鼻からの気道がせまくなると、気道を確保するために首は前傾し、下あごは前方に出た姿勢をとります。
救急現場などで気道を確保するために首を後傾している場面をみかけますよね。まさしくあの状態をそのまま前方に持ってきた姿勢です。首を後傾したままだと日常生活は送れませんものね。
また頸椎に対してまっすぐに頭の重さがかからないということは、姿勢を維持するたくさんの筋肉に負担をかけてしまいます。長時間姿勢を維持するのがとても疲れるため頬杖をついたり、何かに寄り掛かったりすることが増え、さらに歯列を含め、顎顔面に大きな変化を及ぼします。
また口呼吸などでこのような姿勢をとる大人に、ひどい肩こりや腰痛、自律神経系の疾患に悩まされたりする人が多いのはこのためです。「うちの子は子供のくせにホント疲れやすくって」よくお母さんから相談を受けることがあります。
また大人の方でひどい頭痛もちで脳外科的、機能的に全く問題のない方の中にも、口呼吸の影響や歯並び、顎の位置のずれが原因で不定愁訴をたくさんお持ちの方も年々増加傾向にあるのも現実です。
普段口呼吸している人でも人間は就寝時は口で息をすることができなくなります。つまり寝ている時は鼻が詰まった状態で鼻呼吸をしています。この状態は非常に寝苦しく体力も奪われます。
この状況下ではなんとかがんばって鼻から呼吸しなければならないので、胸部、腹部、背部などたくさんの筋肉を使って努力して空気の吸入と排出を行っています。就寝中にもかかわらず呼吸のための運動をしているため、汗をかき、体力を消耗し、疲れるため寝起きが悪くなります。
就寝中、鼻からの呼吸が十分できないと、脳が覚醒し口呼吸を行うように命令し、結果として寝ぼけた状態が起きるのです。
口呼吸が原因で睡眠時、鼻で息がしづらい状況の患者様のなかには、小学校にあがってもまた高学年になってもおねしょがなおらず、ご両親も含め大変悩んでいらっしゃる方がおられます。
多くは泌尿器科に行かれたり、なかには子供さんが責められるケースもあるとききます。年齢にかかわらずけっして子供さんを責めることなどはしないでください。
睡眠時、頑張って鼻呼吸をしようと、胸郭が拡がると胸郭内には陰圧が生じ、心臓が膨らんでしまいます。心臓へは覚醒時より、より多くの静脈血が流れ込むとともに、膨れた心臓は血液を全身へ送り込むためにはふだんより、たくさん収縮をしなければならず、オーバーワークになってしまいます。
心臓の負荷を感知した脳はそれを軽減するために、指令をだし、腎臓からより多くの水分を濾し取ることによって血液全体のボリュームを減らそうとします。その結果、尿が過剰に作られてしまうのです。
脳はたくさんの情報を処理する電気回路です。回路がショートしないように脳の神経細胞はリポ蛋白という脂で絶縁されています。脳は脂で出来ているのです。
他の体の臓器に比べ熱を持ちやすい脳は血液循環によるクーリング(水冷)と鼻腔からのクーリング(空冷)システムによって守られています。
ところが鼻呼吸が出来ず、十分脳が冷やされない状態が続くと、脳内に熱がこもり、ボーっとなって集中力が低下したり、ストレスに対して過敏になったり、うまく対応することが出来ず、「キレ」やすくなって、上手な対人関係を保つことが出来なくなります。また暴力的になってしまうという報告もあります。
このように鼻がつまっていると、起きている時には口呼吸による弊害が起こり、就寝時には睡眠障害が引き起こされます。睡眠の目的の一つは「脳を守り、育て、創る」ことであるとされています。
脳は寝ている間に修復されるとともに、記憶や情報を整理し、また体の新陳代謝にとって大切なホルモンの分泌を行います。
成長期である学童期に睡眠障害が起こると子どもの健やかな成長を阻害することにつながります。睡眠障害が改善することで記憶力が向上し、運動能力も向上したという報告も多くなされています。
また小児の睡眠障害でIQが低下することや、睡眠障害の治療で学習成績が向上したという論文も数多く紹介されています。
成長期、特に学童期における口呼吸による鼻づまりを改善して、質の良い眠りを獲得することは健やかに成長するうえで非常に重要な事なのです。口呼吸によって鼻呼吸ができなくなると顎顔面にはどのような変化がおこるのでしょうか?
通常 鼻で息が出来る正常な状態では舌は口蓋に接触しています。口蓋部分とは熱いものを急いて食べてしまったときなど、やけどして皮がめくれたりするところです。上顎の天井ですね。特に舌先は上の前歯の真ん中の裏よりほんのちょっと後ろに位置します。
舌は口蓋に接触している時は筋肉として作用し、頬の周りの筋肉と拮抗して歯列の形態の維持に役立っています。ところが口呼吸をする上では、舌が正常な位置で口蓋に接触していると、口からの空気が流れにくくなるので、舌は下顎の歯列にちょこんとさがっておさまります。
舌からの圧がかからなくなった上顎の歯列は頬圧のみが作用する結果となり、狭窄したり、V字になったり、きれいに歯が並ばなくなったりします。また口蓋部分も頬圧によって、より上方に深くなり、ますます舌が接触困難な形態に変わります。
そして口蓋が深くなることは鼻中隔の弯曲につながり、ますます鼻から息がしにくい状況を生み出してしまいます。また下顎の歯列には力なく筋肉として作用しない舌がおさまっているので下顎の奥歯は舌側に傾斜することが多くなります。
またそれによって下顎前歯部の歯並びが悪くなったり、直線的に並んでしまうことが多くなります。また舌の位置によっては「開咬」になることもあります。このように口呼吸がしやすいような位置を舌がとることによってさまざまな咬合異常が起こってきます。
また下顎の位置も口呼吸しやすい位置へと変化する場合が多く、本来の位置より前方位をとったり後方位をとったり、さまざまです。また歯肉に対しても口呼吸によって炎症が起こりやすくなります。
このような変化が成長期の口腔内に生じると、本来の遺伝的因子に環境的、機能的要素が加わり、咬合異常をさらに複雑にさせてしまうのです。
下顎の前歯の歯並びに問題が生じている場合、ほとんどが上顎や上顎の歯列に問題を抱えていることが多く、その背景に口呼吸があります。
鼻づまりが原因で口呼吸を行っている場合、耳鼻科的診断や処置が必要な事もありますが、先述したように口呼吸しやすい形態に顎顔面部が変化してしまっていたら、その部分の形態と機能を回復する必要が出てきます。